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「板ケーキ」のデザインができるまで

一つの商品ができるまでには多くの過程があり、

関わる人たちのたくさんの想いが詰まっています。

「板ケーキ」を例に、商品ができるまでをデザイナー目線でご紹介します。

​(長いです。。)​​

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ご依頼​

2023年のある日、株式会社アズアイムの代表山内様から「ご相談をさせてください」と初めてのご連絡をいただきました。

アズアイム様は、柔らかな笑顔のご夫妻がお二人で営む福岡の工房で、奥様の紀江(のりえ)様が代表を務めており、ヴィーガンマフィンを主とした焼き菓子のOEM商品企画・製造・販売をされています。

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山内様ご夫妻

 

ノノズマフィンマルシェ

マルシェでの様子

 

​店舗はないため、「ノノズマフ」の名前で定期的に出店されるマルシェは大人気で「モチモチでヴィーガンと思えないおいしさ」と連日売り切れるほど大好評です。

「工房にこもることが多いので、直接お客様に会えるマルシェがとても楽しいんです」と紀江様。

「妻に会いたくていらっしゃる方も多いんですよ」と旦那様もとても嬉しそうに話してくださいました。

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​マフィンやフィナンシェ、クッキー、ナッツなど、体に優しい商品がたくさん。

 

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お打ち合わせ

まずは工房で直接お二人にお話を伺いました。

紀江さんが

「ある時、病気で食事制限ができてしまった家族のためにヴィーガンスイーツを作り始めて約10年、試行錯誤を経て、ようやく自信作ができたんです」

とそっと出していただいた茶色のチップをいただくと、見た目からは想像できないほど濃厚な味で、カカオのほろ苦い香りが贅沢に広がり、そのおいしさに驚いたのを覚えています。

 

小麦粉や卵、乳製品を一切使わずに作られたとは思えない深い味わいでした。 ​​​

 

それが今回ご依頼いただい「板ケーキ」の原型でした。

板ケーキ

オーガニックのココナッツを主原料とし、化学調味料を使わず素材にとことんこだわった商品なので、ご依頼​​​​は「少し高級な雑貨屋などにも置けるようなパッケージデザインをお願いしたいんです。キャラクターも作りたくて、ちょっとブサカワの、、、」との事でした。

 

ご希望は

・ヴィーガンの知識がない人にもなんとなく体に良さそうだからと食べてもらいたい  

・ターゲット層は健康意識の高い30代から50代女性

・福岡土産としても購入してもらいたい

・販売チャネルは福岡を中心としたナチュラル系雑貨店や高級スーパー

それ以外に細かいことは未定で、ブラウニー味とコーヒー味のチップがおおよそできている、という段階でした。

また、既存の商品にラスクやナッツ、クッキーなどがあり、デザインが様々なので今後統一感をもって展開していきたい、というのもご希望でした。 ​​​​​​​

ヴィーガンラスク

様々なフレーバーが楽しめるヴィーガンラスク、ナッツ

 

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ご提案書作成

まずはアズアイム様の商品を実際に購入して食べてみたり市場調査をしました。

 

競合を何とするか、類似商品の販売店、ヴィーガンやグルテンフリーというカテゴリーの扱いや一般的な印象、 ターゲット層、そしてアズアイム様の強みの洗い出しなどを行いました。 ​

 

アズアイム様の主な強みは

・山内様ご夫妻の素敵なお人柄

・家族のために作られたという経験やストーリー

・マフィンのおいしさや食感(素材の特殊性)

・商品のバリエーションの多さ(スイーツから軽食まで)

そしてやはり「おいしさ」でした。 ​​​

 

方向性を考えていく中で、改めて今後どのように展開していくのか考えるために、より詳しく山内様ご夫婦の話を伺う必要があったので、その材料として一度提案書を作成しました。

内容は、ブランディングの方向性、仮のデザイン、売り上げアップの施策例、他社事例などです。

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ご提案

後日、カフェでゆったりとお二人自身のことを詳しく伺い、提案書をご覧いただきながら様々な想いを伺うことができました。​​ ​​

 

山内様が「ヴィーガン食」を作る上でのこだわりとして「おいしさ」、「手軽さ」、「素材の良さ」があり、そこから感じ取れたのが「アズアイム様があることで、安心して美味しいヴィーガン食を楽しめる」ということでした。 ​

そこでアズアイム様全体のコンセプトとして、【ヴィーガンを楽しもう(Enjoy Vegan)】という言葉をご提案差し上げ、気に入っていただけたので「楽しさ」が伝わるブランドにしようと考えました。 ​​

というのも、「ヴィーガン」という言葉が浸透してきたのはここ数年のことであり、そのイメージは「なんとなく体に良さそうだけどあまりおいしくなさそう」「しょうがなく食べるもの」というネガティブな面もあるため、「楽しむ」というイメージとは少し離れていたのです。 ​

アズアイム様の商品が本当に美味しかったからこそ「楽しもう」という言葉が使えると思いました。

 

ブランドは擬人化させると記憶や印象に残りやすいため、ご要望だった「ブサカワキャラクター」も「楽しむ」を引き立てる大切な要素にります

今回発売するチップに関しても、「ブラウニー」「コーヒー」「さつまいも」で定まったとのことで、ランディングページやパンフレット、LINEスタンプなどのツールも制作することになりました。

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パッケージ形状

今回のパッケージ制作に際して、こちらから提案する要素は大きく3つありました。

 

・形状や素材

・商品名

・キャラクター

実際は同時期に進行しますが、別々に解説します。

まずは製造コストに大きく関わってくるパッケージの形状と素材の選定です。

​​

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アズアイム様の商品はナッツやラスクなどのチャック袋のものが多かったため、当初は チャック袋を想定されていました。 製造コストも安く、食品のの封入や開封後の保存もしやすいためです。 ​

ですが今回はもう一つの選択肢として紙製の箱もご提案しました。

​​

理由としては

・500円前後の販売を予定しているので紙製の方が高級感が出る

・印刷可能面積が多いのでより多くのことが伝えられる

・商品が薄いチップのため中身の保護になる

・デザインの自由度が高い

・陳列時に綺麗に並べやすい

・ギフトにしやすい

などです。

様々な形状の箱の例を見ていただきながらチャック袋と比較して検討していきます。

箱だと製造コストが上がり封入などの手間も増えますがメリットも大きいため、結果的に紙製の箱をご採用いただきました。 ​

​​

そしてお二人と一緒に雑貨屋等を巡って商品を観察しながら「この形は手に取りたくなりますね」「このデザイン目立ちますね」などと意見を交換しつつイメージを徐々に固めていきました。

​​

パッケージ形状

「三角カートン」という形状でおおよそ決まったので、私の方で図面を作成し、印刷業者数社にお声がけしてお見積もりと設計を依頼しました。

最終的に印刷立ち会いが可能で安心してお任せできる業者さんにお任せすることになりました。 ​

製造工程としては、工房にて手作業でチップ入りの袋を箱に封入するため、工房での作業が簡単で且つお客様側での開閉が簡単に行える形状を目指しました。

両面テープやミシン目の位置など、皆で試行錯誤し、試作を繰り返してようやく形状が決定しました。

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試作で様々な形状を検討します

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商品名

商品のイメージを決める「商品名」も、イメージしやすいよう簡単なデザインと共にご提案しました。

 

まずは私の方で商品のメリットを挙げて、それが伝わりやすいネーミングを模索します。

​​

メリット:

 ・グルテンフリー

 ・ヴィーガン

 ・ココナッツが主原料でヘルシー

 ・白砂糖の代わりにきび砂糖を使用

 ・添加物不使用

 ・福岡産米粉使用

 ・美味しい

 ・ザクザク食感

 ・手軽に食べれる便利さ

 ・見た目以上の濃厚な味わい

 ・ヘルシーさ

 ・アレルギーがあっても食べれる

 ・ダイエット時のおやつになる

 ・生産者への安心感

 ・軽くて持ち運びやすい、などその他、、、

​​

商標登録可能なものを100案ほど考えたネーミングの中から数案に簡単なデザインをつけたものを見ていただき、ご意見を伺います。

(言葉の力を比較してもらえるよう、デザインはあえて似たものにしました。)

 

「ケーキチップ」「クッキーデスカケーキデスカナンネコレ」なども気に入っていただきましたが、チップの濃厚さをケーキに例えた「板ケーキ」が一番シンプルで覚えやすいとのことで決定しました。

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ネーミング提案書

 

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キャラクター制作

実はキャラクターは早い段階からご提案していました。

話は戻りますが、当初「ノノズマフィン」の名の元でキャラクターを制作する可能性もあったため、ノノズマフィンさんの商品の特徴でもある原料「マンナン」の原料である蒟蒻芋をモチーフにキャラクター案を作っていました。

別案ではマフィンをモチーフにしたキャラクターなどもありました。

ですが、やはり「ノノズマフィン」と「板ケーキ」を別軸として発売することになり、気に入っていただいてた案をベースに、板ケーキの主原料であるココナッツをモチーフに変更したものが今のキャラクターになっています。

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最初のキャラクター案

 

キャラクターのLINEスタンプも作る予定だったため、ストーリー性を持たせるべく、妹も作ろうと思い誕生したのが

ここなっち」と妹の「ここちっち」でした。

キャラクターの名前は商標登録ができるように、特許情報プラットフォームですでに登録されている名前がないか調べながら山内様と一緒に案を出し合いながら決めていきました。

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デザイン制作

形状、商品名、キャラクターが決まったので、illustratorでデザインを作っていきます。

 

カジュアル、シンプル、大人向け、など方向性が違うものを数案作ります。

キャラクターに関しては、ナチュラルテイストのパッケージにはかっちりしたイラストだと浮いてしまうので、iPadでAdobeFrescoを使って手書き風に描き直したものを配置し、表情もバリエーションを作ります。

 

素材にこだわった商品なので素材を大きく見せる案を作るべく、カカオやコーヒーやポテトのイラスト、更にケーキのイラストも起こします。

全体のカラーに関しては、今後発売予定のフレーバーの事も考慮してデザインしていきます。

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​最初のデザイン案

気に入っていただけた案を元に、ご意見を伺いながらブラッシュアップします。

 

工房のある福岡で作られた米粉を使用しているため、福岡土産としても選んで欲しいとの想いから、山内様の案でパッケージのキャラクターに博多弁を喋ってもらうことになりました。

おおよそのデザインができたところで試食会を開き、アンケートを取ることにしました。

というのも、自分たちの想いを込めればこめるほど、客観的な視点で見ることが難しくなるためです。

以前より山内様にご協力を申し出てくださっていた会社様があったため、そちらの方々にご意見を伺ったり、私の知人にも協力してもらいました。

おかげで新たな発見もたくさんありました。

 

しかしながらアンケート結果を全て反映すれば正解になるわけではないため、取り入れるところは熟考しながら、色や「小麦粉・卵・乳製品不使用」の文言を入れるなどの変更を加えました。

英語表記に関しては、日本で英語教師をしているネイティブの知人に依頼し、表現に違和感がないかを確認してもらいます。

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アンケート用紙

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商標登録

商品名やロゴが完成したところで山内様側で弁理士を介して商標登録を出願していただきました。

申請から数ヶ月かかることがあるため、発売前になるべく早く特許庁に申請する必要があるため、なるべく早い段階で準備をしていただきます。

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LINEスタンプ制作

パッケージがおおよそできた段階でキャラクターのLINEスタンプを制作します。

この段階でスタンプを作る理由は、スタンプのURLを取得してランディングページ(LP)に記載するためです。

 

ラフ案の中から今回は24個制作することにしました。

AdobeFrescoで制作したイラストをPhotoshopでサイズや解像度を調整し、PNGの個別データにします。

 

納品したものを山内様側にてクリエイターズスタンプとして申請・登録していただきました。

「ここなっち&ここちっち」LINEスタンプ↓ https://store.line.me/stickershop/product/28745792/ja

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制作途中

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ランディングページ制作

スタンプが発売になり、URLが取得できたため、LP制作に入ります。

見積もりを依頼したWEB制作業者の中から選定した東京の業者とzoomや電話で進めていきます。

 

LPのURLが決まり、パッケージにQRコードを記載できるようになったのでその後パッケージ印刷、パッケージ撮影、それを最終的にLPにレイアウト、と少し流れが複雑です(後述)。

 

デザインは、PCとスマホの両者用にこちらでillustratorデータを用意し(レスポンシブデザイン)、業者にコーディングをお願いしました。

山内様側でご用意いただいたインスタやECサイトなどのリンクも貼り、細かい部分や読み込み速度などを何度か修正を指示しましたが、デザインがうまく反映されていなかったりと、業者とのやり取りで少し苦労しました。

「板ケーキ」LP →

https://azim2015-fukuoka.com/

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パッケージ印刷

LPのQRコードをパッケージの背面に記載できたので、いよいよパッケージの印刷に進みます。

仕様は次の通り。

・4色印刷

・金の箔押し

・表面加工:マットビニール引き

 

コストを抑えるため、3種を1枚の紙に印刷する方法を選びました。

(デメリットとして、種類ごとに色を調整できない、個別に増産できないという点があります。)

 

印刷は山内様も同席していただける距離の業者にお願いしたので、当日は印刷現場に立ち会いその場で色の確認・指示をしながら進めます。

当日のうちにマットビニール引きまで確認できたので、後日箔押しして完了です。

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数パターンの色で出してもらいます

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商品撮影

パンフレットやLP、ECサイト、店頭ツールなどに使用するための写真を撮影します。

腕と人柄に信頼のある知人カメラマン(BISカンパニーの坂口さん)に依頼し、福岡のスタジオにて山内様ご夫妻お立ち会いの上、パッケージやチップの写真などを撮影していただきました。

スタジオ撮影
商品撮影

ディレクションはこちらで行うので口うるさい私からの要望も多かったのですが、終始こちらの意図に真摯に寄り添って撮影していただけたので非常に助かりました。

 

誰かと共に一つのものを作る時に常々感じるのですが、こちらの意図を汲んで動いていただける方かどうかというのが出来栄えを大きく左右するので、パートナーの選定は非常に大切だなと思います。

坂口様はお人柄も良いので山内様にも喜んでいただき、終始楽しく撮影できたので本当に感謝しております。

板ケーキ

撮影した画像を使ったLP

BISカンパニー

自然光の入るおしゃれなスタジオ

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ツール制作

最後に販売用の様々なツールの制作です、

 

展示会やマルシェや店頭で使用する、パンフレット、名刺、テーブルクロス、バナー、POPなど。

 

ツールを使用するシチュエーションでは、周囲に競合商品などが並ぶことが多いため、一番目立つブラウニーのピンクをベースとして統一感を出しました。

こちらは入稿データをお渡しして山内様の方で入稿していただきました。

「板ケーキ」パンフレット中面
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←展示会の様子

この時は幅が狭めのブースでしたが、それでも会場の中で

ピンクがひときわ目立っており楽しさの伝わるブースでした。

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さいごに

その美味しさから「板ケーキ」の取扱店は福岡を中心に増えているそうなので、きっとたくさんの方を笑顔にしてくれているのだと思います。

 

本来であれば関われる機会もなかった私に、デザインを通して素敵なクライアント様の想いをより多くの方に届け、幸せを創るお手伝いをさせていただける。

デザイナーというのは私にとってこれ以上ない最高の仕事です。

 

また、クライアント様が想いを込めた大切な商品をお任せいただけることに非常にありがたさを感じると同時に、その責任の重さも実感しております。

 

私は正直しっかり者ではないですし、もちろん完璧ではないので、ご迷惑をおかけすることもあります。

ですが、私にお声がけいただいた以上、クライアント様の想いを叶えるため、お役に立てるよう全力を尽くしたいと思い日々デザインと向き合っています。

 

クライアント様の素敵な想いをより多くの方に届けて、もっとワクワクな世界を創りたい、それが私の願いです。

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